
2024年 ネヴィル・トランターが演じる『ユビュ王』の公演後にいただいた劇評の一部をご紹介します。
オランダ在住の人形劇俳優・ネヴィル・トランターにおける
『ユビュ王』の人形劇(ギニョール)の世界
一『ユビュ王』のユビュ親父・ユビュおっ母と
『マクベス』のマクベス夫妻における<悪の凡庸さ>をめぐって一
博士(英米文学)平 辰彦(尚美学園大学)
私は『ユビュ王』に登場するそれぞれの人形を操るネヴィル・トランターの緻密な人形遣いの技巧と台詞の言い回しを視聴して日本の古典芸能の一つである「文楽」と呼ばれる人形浄瑠璃の人形遣いの技巧と太夫の浄瑠璃の語りの阿吽の呼吸ともいえるものが共通していると強く感じた。
日本の伝統芸能である人形浄瑠璃は三味線弾きの太棹三味線と浄瑠璃を語る太夫の義太夫節の語りと人形遣いの人形の三位一体となった舞台芸術である。
特にこの古典芸能の人形遣いは世界でも珍しい三人遣いである。三人遣いとは、一体の人形を三人で操る様式。人形の首と右手を操る「主遣い」、左手を操る「左遣い」、足を操る「足遣い」をさす。
「三人遣い」の「文楽」の人形は人間の動きにより近い動きを可能し、語る台詞の物語を豊かに表現することができる。「足遣い」の修行に15年、「左遣い」に15年を経てようやく「主遣い」になることができる。
ネヴィル・トランターは「人形が命を持つという魔法には、技術が必要です。」と語っていたが、その技術は日本の古典芸能の人形浄瑠璃の人形遣いの技術に匹敵するものであるといえる。
人形浄瑠璃の人形遣いと浄瑠璃を語る太夫には、「序・破・急」のリズムが重要だが、ネヴィル・トランターの操る人形には「静・動・静」の「序破急」に対応するリズムが認められる。
ネヴィル・トランターは人形を操り、語るだけでなく、『ユビュ王』の脚本・演出・美術も手掛けているが、今回上演された『ユビュ王』は作者のジャリが希望していた「人形劇」(ギニョール)の上演であったので、ジャリが観たら、このネヴィル・トランター人形劇『ユビュ王』の舞台に大喝采を送ったことだろう。
だが、残念ながら日本で上演されたネヴィル・トランターの『ユビュ王』は最後の公演であり、二度とこの公演を日本でみることができないのは誠に残念である。
できる事なら、ネヴィル・トランターの言う「人形が命を持つ魔法には、技術が必要」というその技術を持つ人形劇団プークに是非、アルフレッド・ジャリの『ユビュ王』を日本語でネヴィル・トランターの人形劇の脚本を基に人形劇団プークのオリジナル人形劇『ユビュ王』を是非、プーク人形劇場で観劇してみたい。
ただし今回上演されたネヴィル・トランターの一人遣いの人形劇『ユビュ王』ではなく、ネヴィル・トランターが6年前にリトアニア国立人形劇場で大人向けに上演した4人遣いの『ユビュ王』で上演していただけたらと思う。
この人形劇『ユビュ』の日本語版が人形劇団プークの人形劇の重要なレパートリーの演目のひとつとなり、今後も人形劇団プークによって上演されていくことを心から願ってやまない。
